エイヒレのお勉強memo

主に数学と機械学習, その他の雑多な話のメモ

【数学会】ガロア理論を理解しよう:10.2 べき根拡大 (1/3)

この記事は仲間内で実施している数学会の発表ノートです.

本ブログのスタンス, 読むときの注意等は以下の本ブログaboutページをご覧ください. smbttimemo.hatenablog.com

テーマとステータス

私エイヒレは現在, 代数方程式の可解性に関する研究として有名なガロア理論の解説を行なっています. 教科書として, 津山高専の松田修先生による「ガロア理論を理解しよう」を使わせていただいています (良記事の無料公開ありがとうございます). ゴールはガロアの定理の証明, およびその帰結として有名な「一般の5次以上の方程式には解の公式が存在しない」ことを示すことです.

www.tsuyama-ct.ac.jp

全体のストーリーをエイヒレなりにまとめますと, 以下のような構成になっています:
1. 群の導入, 特に可解群の性質 (1-4章)
2. 体, 環, ベクトル空間の導入 (5-8章)
3. ガロアの定理 (9-10章)

現在のステータスは終盤の上記3です. 上記3の章立てを記載します.

  • 9 最小分解体とガロア拡大
    • 9.1 体の拡大
    • 9.2 最小多項式
    • 9.3 最小分解体とガロア拡大
  • 10 ガロアの定理
    • 10.1 ガロアの定理1
    • 10.2 べき根拡大
    • 10.3 ガロアの定理2 (方程式の可解性)
    • 10.4 最終セクション

このノートでは, 10 ガロアの定理より, 10.2 べき根拡大のパートを記載します. 内容が少しヘビーなので, 三つの記事に分割することにし, この記事は一つ目の記事になります.

前記事の復習

10.1 ガロアの定理1, の前記事はガロア理論の基本定理の具体例を確認しました.

こちらの内容についてのノートは以下になります.
smbttimemo.hatenablog.com

本記事のサマリ

この記事で述べたい内容は以下になります.

  • ガロア理論が対象にする方程式
  • ガロア理論が対象にする方程式の解き方
  • "代数的に解ける"の厳密定義
  • ガロア理論の結論をチラ見

10.2 べき根拡大

この記事では教科書と少し順序を入れ替え, ガロア理論における"方程式を解く"について, 改めてきちんとまとめていこうと思います.

ガロア理論が対象にする方程式

まずガロア理論が考える方程式について述べます. ひとくちに方程式といっても様々な種類があり, 例えば下記の英語版wikipediaを参照すると次のような種類が挙げられています:

  • 代数方程式
  • ディオファントス方程式
  • 超越方程式
  • パラメトリック方程式
  • 関数方程式
  • 微分方程式や積分方程式等, 微分や積分操作を含む方程式

en.wikipedia.org

上記太字で記載した通り, ガロア理論では方程式の中でも特に代数方程式を対象に分析していきます.

代数方程式の広義の定義は, 多変数多項式f(X_{1}, ... , X_{n})を等号で結んだ形で表現される方程式


\displaystyle f(X_{1} , ... , X_{n}) = 0

を指します. 多変数多項式f(X_{1}, ... , X_{n})が有限和


\displaystyle f(X_{1} , ... , X_{n}) = \sum_{i_{1}, ... , i_{n}} a_{ i_{1}, ... , i_{n} } X_{1}^{ i_{1} } \cdots X_{n}^{ i_{n} }

と表現されるならば, 代数方程式は一般に


\displaystyle \sum_{i_{1}, ... , i_{n}} a_{ i_{1}, ... , i_{n} } X_{1}^{ i_{1} } \cdots X_{n}^{ i_{n} } = 0

と書けます.

そして, ガロア理論では代数方程式の中でも特に一変数の代数方程式を分析対象にします:


\displaystyle \sum_{i=0}^{n} a_{ i } X^{ i } = 0.

ここで言葉の注意です. 代数方程式は多項式方程式とも呼ばれますが, 下記の英語版wikipediaによるとその使い分けは以下のようになるようなので, 英語記事を読むときは注意をした方が良いかもしれません:

  • 多項式方程式: 多変数多項式を用いた方程式,
  • 代数方程式: 一変数多項式を用いた方程式.

en.wikipedia.org

よってガロア理論の分析対象となる方程式は, 例えば


\displaystyle X^{3} + 3 X + 2 = 0


\displaystyle X^{5} - \frac{5}{2} X^{3} + 1 = 0

といった一変数多項式による代数方程式であり, 例えば


\displaystyle \cos X - \sin 2X = 0

といった超越方程式や,


\displaystyle \frac{d^{2} u}{d X^{2}} - X \frac{du}{dX} + u = 0

といった微分方程式は一般的にガロア理論の分析対象外となります.

きちんと述べてきませんでしたが, これがいままで一変数多項式f(X)やその集まりである体K係数の多項式環K [ X ] について考えてきた理由でした. 以降ガロア理論における"方程式"は一変数の代数方程式を指していると思ってください.

ただ余談ですが, 微分方程式に対するガロア理論として微分ガロア理論と呼ばれる分野が存在します. ガロア理論の考え方を応用し, 対象の方程式を拡張していく動きがあるようです.

study-guide.hatenablog.jp

ガロア理論が対象にする方程式の解き方

次に方程式を解く, について述べます.

代数方程式の解は特に根と言われます. すなわち体K係数の多項式環K [ X ] の元f(X)に対する代数方程式f(X) = 0の根\alphaとは, f (\alpha) = 0を満たすものを言います (以前の記事*1でも言及しています). 代数学の基本定理によって, 係数が複素数体に含まれる任意のn次方程式は, 複素数の範囲に重複を含めてちょうどn個の根を持つことが知られています.

方程式を解くとは, その方程式の根を特定することを指します. 方程式の解き方についても色々とあり, 下記では次の3種類が挙げられています:

  • 数値的解法
  • 代数的解法
  • 超越的解法

ja.wikipedia.org

上記太字で記載した通り, ガロア理論では方程式の解き方の中でも特に代数的解法を対象に分析していきます.

まずは口語的に代数的解法のイメージを一言で述べると, 方程式の係数たちに次の5種類の操作を有限回行って, その方程式の根を得ることを指します:

  • 四則演算
    • 加法
    • 減法
    • 乗法
    • 除法
  • べき根 (\sqrt[n]{\cdot}) を取る

この視点で見てみると, 例えば高校で習う2次方程式


\displaystyle a X^{2} + b X + c = 0

の解の公式


\displaystyle X = \frac{-b \pm \sqrt{b^{2} - 4 a c} }{2a}

はまさしく上記5種類の操作を有限回行うことによって根を得る操作となっており, 2次方程式の代数的解法となっています.

3次方程式の解の公式については以前の記事*2で言及し, その中でも特にCardanoの公式を用いて実際に3次方程式の根を求めました. Cardanoの公式は, それを用いて2次方程式のときのように3次方程式の3つの根を上記5種の有限回の操作として書き下すことが可能である[1]ため, Cardanoの公式は代数的解法となります. しかし書き下すと余りにも長くなるため, 実用的には根を求めるためのマニュアルのように扱われることが多いです. 一方, 3次方程式の別の解の公式として知られているVieteの方法は, 根を書き下すと三角関数などの超越関数を含んでしまうため, 代数的解法とは言われない方法となります.

4次方程式の解の公式についても以前の記事*3でFerrariの方法について言及しましたが, Ferrariの方法も代数的解法です[2]. 3次方程式同様, 書き下すととても長くなります.

以上で4次までの方程式については, 任意の方程式に対する代数的解法が存在することを述べました. 5次以上の方程式についても代数的に解くことができるものが存在し, 例えば


\displaystyle X^{5} - 1 = 0

という方程式の根は,


\displaystyle X = 1, \frac{- (1 + \sqrt{5}) \pm \sqrt{ -10+2 \sqrt{5} } }{4}, \frac{- (1 - \sqrt{5}) \pm \sqrt{ -10-2 \sqrt{5} } }{4}

と書き下せるため, 代数的に解くことが可能です.

一方で代数的に解けない方程式も存在し, 例えば下記は代数的に解くことができません (理由は本記事末尾で言及します):

  • X^{5} -13X + 13 = 0,
  • X^{7} -154X + 99 = 0.

さてここまでの本記事の内容を一度まとめます. ガロア理論でターゲットとなるのは"一変数の代数方程式を代数的に解く"ことでした. 代数方程式とは多項式を等号で結んだ方程式であり, 代数的解法とは, その方程式の係数たちに四則演算およびべき根をとるという5種類の操作を有限回実施することによって, その方程式の根を得ることでした.

また上記に記載の通り, 任意の方程式が代数的に解けるわけではありません. 特に5次以上の方程式にはそのようなものが存在します. ではどのような方程式であれば代数的に解くことができ, どのようなものは代数的に解けないのか, ガロア理論はその条件を見つけることが目的となります. それゆえガロア理論の内容を一言で述べると, 代数方程式の可解性の研究と表現されるものとなります.

"代数的に解ける"の厳密定義

上記では代数的解法について口語的にイメージを述べました. ここでは代数学の言葉で"代数的に解ける"を厳密に定義をしていきたいと思います.

先ほど方程式が代数的に解けるとは, その方程式の係数たちに四則演算およびべき根をとるという操作を有限回施すことによって根が得られること, ということを述べました. この方程式で考えている多項式は体K係数の多項式環K [ X ] の元として考えていました.

多項式の係数たちの四則演算については, その係数体Kの中で閉じた演算ですが, べき根をとるという操作は係数体Kの中で閉じた演算とは限りません. 例えば\mathbb{Q} [ X ] の多項式による方程式


\displaystyle X^{2} - 2 = 0

において2の平方根\sqrt{2}は係数体\mathbb{Q}に含まれないものとなります. そこで次のようにべき根拡大およびその系列を考えることで, べき根をとる操作について閉じ, さらにそれと他の元との四則演算についても閉じた体の拡大を行います:

定義 Lを体Kの有限次拡大体とする. 次の2つの条件を満たすようなKの拡大列がとれるとき, LKの広義べき根拡大 (広義べき根拡大体) である, という. 特にr=1のときは単に, べき根拡大という.
(1) K = K_{0} \subseteq K_{1} \subseteq \cdots \subseteq K_{r} = L,
(2) K_{i} = K_{i-1} (\alpha_{i}), \  {\rm Irr} ( \alpha_{i}, K_{i-1} ) = X^{n_{i}} - a_{i} \  (1 \leq i \leq r).

これによって方程式の係数たちに四則演算およびべき根をとるという操作を有限回施すという状況を代数の言葉で再現できました.

広義べき根拡大体の例として, 以前の記事*4で3次方程式


\displaystyle X^{3} + 3 X + 2 = 0

を解いたときの体の拡大について, 定義に合わせて書き直してみると,


\displaystyle \mathbb{Q} \subseteq \mathbb{Q} ( \sqrt{2} ) = M \subseteq M \left( \sqrt[3]{ 1 + \sqrt{2} } \right) = M^{'} \subseteq M^{'} (\omega) = L

となります. ここで


\displaystyle \omega = \frac{-1+\sqrt{-3}}{2}

でした.

以前の記事*5*6で, ガロア理論においては体を拡大していくことで適当な体の中で方程式の根を見つける, というコメントをさせていただき, 体の拡大の方法のひとつとして体に元を添加するという操作を導入しました*7. その目的はここで述べたべき根拡大体を構成することで, べき根を添加した体を構成したいがために用意してきた概念であると言えます.

さて, 以前の記事*8で述べた通り, ある多項式f(X)∈K [ X ] が与えられたとき, 体Kの拡大体Lで, 多項式f(X)L [ X ] の中で1次の多項式の積に分解できる, すなわちf(X)∈K [ X ] がその上ですべての根を持つようなものが存在し, その中で最小のものを最小分解体と名付けたのでした. 最小分解体は, その中に方程式の根をすべて含むための最小の体, 一方, 広義べき根拡大体は代数的に解く過程で得られる体の拡大列です.

よって最小分解体と広義べき根拡大体の関係をまとめると, ある多項式f(X)∈K [ X ] による方程式


\displaystyle f(X) = 0

が代数的に解けるとは, その最小分解体Lが係数体Kの (広義) べき根拡大体となっている, もしくは最小分解体Lが係数体Kの (広義) べき根拡大体に含まれるということとなります. 逆に代数的に解けない状況とは, どんな (広義) べき根拡大体を持ってきても, 最小分解体Lを包含できないということとなります. したがって次のような定義となります:

定義 Kを体,

\displaystyle f(X) = a_{0} X^{n} + a_{1} X^{n-1} + \cdots + a_{n} \  ( a_{0} \neq 0 )
K係数の多項式とし, f(X)\mathbb{Q} (a_{1} / a_{0} , ... , a_{n} / a_{0}) 上の最小分解体をLとする. このとき\mathbb{Q} (a_{1} / a_{0} , ... , a_{n} / a_{0}) の広義べき根拡大体L^{'}を適当に選び, L \subseteq L^{'}とできるとき, 方程式f(X)=0はべき根によって解ける, または代数的に解けるという.

例としては以前の記事*9で確認した通り, 3次方程式


\displaystyle X^{3} + 3 X + 2 = 0

を解いたときの広義べき根拡大体


\displaystyle \mathbb{Q} \subseteq \mathbb{Q} ( \sqrt{2} ) = M \subseteq M \left( \sqrt[3]{ 1 + \sqrt{2} } \right) = M^{'} \subseteq M^{'} (\omega) = L

に対し, 上記の3次方程式の最小分解体\mathbb{Q} ( x_{1}, x_{2}, x_{3} )との関係は


\displaystyle \mathbb{Q} ( x_{1}, x_{2}, x_{3} ) \subseteq L

となっており, これはまさしく3次方程式


\displaystyle X^{3} + 3 X + 2 = 0

が代数的に解けるということを指していたということになります.

これによって方程式を解くというある種具体的な操作を, 代数の世界, 特に体論の世界の概念に落とすことができ, 抽象代数の世界での議論が可能となりました.

ガロア理論の結論をチラ見

では最後にガロア理論の結論をチラ見しようと思います.

上記の通り, ガロア理論はどのような方程式であれば代数的に解くことができ, どのようなものは代数的に解けないのかの条件を詳らかにするものです. 本ブログにおける未定義語が含まれるので本当にチラ見程度ですが, 以降数か月で本ブログで証明する結論は以下となっています:

定理68 (ガロアの定理2) Kを体とし, f(X) \in K [ X ] とする. このとき,
方程式f(X)=0が代数的に解ける \Leftrightarrow f(X)のガロア群が可解群である.

これにより多項式f(X) \in K [ X ] のガロア群を調べることで代数的な可解性が分かることとなります. 先ほど述べた下記の2つの方程式はいずれも多項式のガロア群が可解群とはならないため, 代数的に解けないことが分かります:

  • X^{5} -13X + 13 = 0,
  • X^{7} -154X + 99 = 0.

ただ代数学の基本定理から, 上記の2つの方程式にもその次数の個数だけ根はあります. よって,

  • \mathbb{Q}の元たちに四則演算およびべき根をとる操作を有限回実施することによって得られる複素数全体の集合をS,
  • \mathbb{Q}上の代数的数 (\mathbb{Q} [ X ] の元による方程式の根と成り得る複素数) 全体の集合を\overline{\mathbb{Q}}

とすれば, S\overline{\mathbb{Q}}よりも真に小さい集合であると言えます:


\displaystyle S \subsetneq \overline{\mathbb{Q}}.

また上記のガロアの定理2および根の対称性に関する考察から, ガロア理論の帰結として有名な"5次以上の方程式には解の公式が存在しない"ことが示せます. この定理はアーベル・ルフィニの定理と呼ばれる定理で, ガロア理論とは独立に発見されたものですが, 後にガロア理論を整理することで同一の結論に辿り着いたため, ガロア理論の末尾に証明されることがほとんどとなっています.

では本ブログで最後に示すことになるであろうアーベル・ルフィニの定理をチラ見します:

定理72 t_{1},...,t_{n}\mathbb{Q}上代数的独立な元とする. n \geq 5のとき, n変数有理関数体\mathbb{Q} (t_{1},...,t_{n})上の多項式

\displaystyle f(X) = X^{n} + t_{1} X^{n-1} + \cdots + t_{n}
はべき根によって解くことはできない. つまり5次以上の方程式の解の公式は存在しない.

5次以上の方程式には代数的に解けないものが存在してしまう, よって4次以下のときのような, 任意の方程式に適用可能な代数的な解法は作れない, すなわち解の公式は存在しないということになります. 先ほどのガロアの定理2と合わせて, これからじっくり向き合っていこうと思います.

この記事は以上になります. ガロア理論において分析対象となる方程式およびその解き方と厳密定義の話でした.

次記事の予告

次回は10.2 べき根拡大, について1のべき根についてまとめていきます.

さいごに

この手の内容は初めにきちんとまとめておくべきで, 今更ながらという感じになってしまいました. 一方で当たり前すぎるからか, 案外まとまっているものが無かったりもするので, 個人的には書いてみて良かったです.

参考文献

[1] wikipedia 三次方程式
ja.wikipedia.org
[2] wikipedia 四次方程式
ja.wikipedia.org

*1:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.3 最小分解体とガロア拡大 (2/2) https://smbttimemo.hatenablog.com/entry/2021/06/04/202256

*2:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.1 体の拡大 (1/3) https://smbttimemo.hatenablog.com/entry/2021/01/23/143859

*3:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.1 体の拡大 (1/3)

*4:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.1 体の拡大 (1/3)

*5:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.1 体の拡大 (1/3)

*6:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.3 最小分解体とガロア拡大 (1/2) https://smbttimemo.hatenablog.com/entry/2021/04/14/223510

*7:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.1 体の拡大 (2/3) https://smbttimemo.hatenablog.com/entry/2021/01/26/001018

*8:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.3 最小分解体とガロア拡大 (1/2)

*9:【数学会】ガロア理論を理解しよう:9.1 体の拡大 (3/3) https://smbttimemo.hatenablog.com/entry/2021/02/05/183450